選外俳句のコメント

芦野信司
「山茶花の咲くころ妻は先立ちぬ」


亡き奥様への哀惜の念を美しい山茶花に託した素敵な句だと思います。ただし、散文としても詠めてしまう点がもったいないところです。この句の要素は、山茶花と奥様が亡くなっていることの二点で、「咲くころ」は不要であり、「妻は先立ちぬ」は「亡き妻」や「妻亡き」に圧縮するとが可能です。つまり中七・下五の十二音を四音に圧縮できます。そして、この句は過去形でありますが、出来れば「今」を表現したい。奥様が亡くなって「今」がどうかということです。
 かりに山茶花が庭に咲いていたとして


  山茶花や妻亡き庭に日のほのと
 

折山正武
「寄り添える猫の甘噛み冬ぬくし」

私は猫を飼った経験がなく、猫の甘噛みを想像で鑑賞しました。冬ではあるが暖かさを感じる午後、猫を抱いている穏やかなひと時をよく表現されていると思います。猫好きの人は採るだろうと思いました。私が選に入れなかった理由は、口語と文語が混在しているように思ったからです。上五の「寄り添える」は口語ワ行下一段活用の連体形とすると他動詞ですから句意と合わない。自動詞なら五段活用の「寄り添う」でその連体形も「寄り添う」だから四音になってしまう。一方下五の「冬ぬくし」は文語の形容詞。もし「寄り添える」を文語「寄り添へる」と考えると、「寄り(四段自動詞『寄る』の連用形)」+「添へ(ハ行四段自動詞『添ふ』の已然形)」+「る(文語の完了の助動詞『り』の連体形)」となり、句意に適います。「寄り添へる」とどちらも文語(ワ行ではなくハ行になります)とされるのがいいのではないでしょうか。作者は文語だけれど現代かなづかいにしたのだと言われるかもしれません。しかし、現代かなづかいは昭和61年の内閣告示で“主として現代文のうち口語体のものに適用する”とあります。句作経験豊富なベテランの句と観ましたので厳密に考えました。

星伸予
 「葉を落とし透ける夜空の青さかな
  焦点が、葉を落とすということか、夜空なのか曖昧です。
  青さは昼間の空を連想させます。
  夜空がよく見えたという視点で直しました。
      
  添削  枯れきつて空の紫紺の広がれり

荒井理沙

「雪女郎 仕留めた俺は 目で殺す」

句は本来 季語との取り合わせとして「強.弱」「陰.陽」「明.暗」と言った様な組み合わせが理想とされている。しかし掲句は季語のインパクトが強くフレーズも強烈である。参考迄に「雪女郎負けぬ目ぢから此処にあり」と個性的であろう作者の意を慮ってみた。又「俺」としなくても読む人は作者の立ち位置が理解出来ると思う。ハイレベルを狙うなら「俺」とか「我」を成るべく使わずにしてほしい。但し何事にも例外はあるが。